平安中期に編まれた『古今六帖』(四)に、先の南畝の狂歌のような歌があります。
夢にのみききききききとききききとききききききといたくとぞ見し
二一七五
君によりよよよよよよとよよよよと音をのみぞ泣くよよよよよよと
二一七六
後者の「よよ…」は泣き声ですが、前者の「きき…」は分かりません。どちらもたいした歌ではないようです。
狂歌には同じ字をいくつも詠みこんだ作がいろいろあります。その中で、栗柯亭木端の元文五年(1740)刊の『狂歌ますかがみ』に載る、イロハのイからスまでの四十七字をすべて十ずつ詠みこんだ四十七首は壮観です。イとロの二首をあげます。
勇ましくはいはいはいと大勢が言うていそいそ勇む国入り
峰の色はぼろろぼろろと山下ろしのそろそろ吹きおろす初冬の頃ほひ
俳諧にもいろいろとあります。その中からいくつか。
寛永十年(1633)刊の江戸時代最初の句集『犬子集(えのこしゅう)』(一)に、
ある人の云ふ、菜を七つ置きて七草の発句せよとありければ、
沢山な菜は七草の薺(なづな)かな
という句があります。七草だからナ(菜)を七つ入れたのです。
正保二年(1645)刊の『毛吹草』(六)にも、「菜を七つ入れて」という題の七草の句があります。
長くただ薺七つ菜たたくかな
重長
これは回文です。
『毛吹草』(六)には、やはり回文で、
寒さのみ寒さや寒さ身の寒さ
作者不知
というサを八つ入れた句があります。特別の詞書はありませんから、同じ字をいくつも入れるという意図は無かったのでしょう。
田植ゑ歌へ歌はば田植ゑ田植ゑ歌
重方
これもやはり『毛吹草』(六)に載る回文。タが六つ、ウが六つ、エ(へ・ゑ)が四つ、ハが二つ、それだけです。これも特別の詞書はありません。回文であると同じ字を二度以上用いることになりますから、意図しなくても同じ字がいくつも入ります。
最後に
ことば遊びにはまだいろいろなものがありますが、ンまで来たので、連載はこれで終わりにします。
長い間ご愛読をいただきましてありがとうございました。