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第20回 ん回し など
火回し

「火回し」という遊びがありました。『日本国語大辞典』に、「子どもの遊戯の一つ。数人が輪になってすわり、火をつけた線香やこより・紙燭(しそく)などを持って、しり取り遊びのように物の名を言いながら順に回し、言いつまって火が次第に指に迫ってあわてるのを興じ、火が消えたものを負けとする。同音で始まる物の名を順次あげてすることもある。火文字ぐさ。火文字ぐさり。火の字まわし。火回り。火渡し。火やろ。」とあります。長治二、三年(1105、6)ころに堀河天皇に詠進した『堀河百首』に、源国信の

みどり子の遊ぶすさびに回す火の空しき世をばありと頼まじ
一五五五

という歌がありますから、すでに平安後期にはあったことになります。

宝永四年(1707)初演の近松門左衛門の浄瑠璃『心中重井筒』(中)に、大阪の島之内の遊女屋重井筒屋で、遊女の房を中心に火回しをするところがあります。

引き裂き紙の捻(ひ)ね元結で火回しを、「ひの字」、「日野絹。房様なんと」、「わしは独り寝」、「アアいまいまし、緋無垢」、「冷や酒」、「曳舟」、「火桶」、「雲雀」、「鵯(ひよどり)」、「比叡の山の」、「檜の枝に」……「こちは祝うて姫小松」、「緋縮緬(ひぢりめん)解く人目の隙(ひま)に、鬼も来るなと柊や」、「ひよこ」、「ひしこ」、「一文字」、……飯炊きは来て「火吹き竹」、料理人まで「冷やし物」、駕籠の彦兵衛「膝頭」、「柄杓」、「緋緞子(ひどんす)」、「蟇(ひきがへる)」、「平野蒟蒻」、「菱紬」、……「南無三宝、火が消えた」

「同音で始まる物の名を順次あげてする」のはヒであったことが分かります。

火回しに禿(かむろ)引け四つたんと言ひ 柳多留・四
禿は遊郭で見習いの少女。引け四つは閉店時間の深夜十二時

火回しにお妾(めかけ)日なし貸しと言ひ 柳多留拾遺・二
日なし貸しは毎日少しずつ返す契約で金を貸すこと

火回しに日当たりと言ふ紺屋の子 柳多留・三三

などの川柳も、ヒで始まる語を言うことであることを示しています。

ヒで始まる語を言うのは、火回しだからでしょう。大田南畝の随筆『一話一言』(五)には、ヒで始まる言葉を拾い集めて本にしていた火回しの名人の話が引用してあります。江戸初期の笑話本にもヒで始まる語を続ける話があります。『百物語』(上・二七)には、火回しを始めて、ヒの字が頭に付いた語を順に言い合い、ヒバリ、ヒヨドリと続いた後に、火回しを知らない者が、鳥の名を言うことと心得て、フクロウと言ったので、大笑いになった、という笑い話があります。

寛文十二年(1672)に出た『一休関東咄』(中・一〇)のも、知らないで恥をかく話です。ヒヂリメン(緋縮緬)、ヒザヤ(緋紗綾)、ヒドンス(緋緞子)の後に、知らない者がヒハブタイ(緋羽二重)と言い、一休に「緋羽二重という物は知らない。」と言われて腹を立て、「皆がヒヂリメン、ヒザヤ、ヒドンスと言うのに、ヒハブタイと言わないことがあるか。」と言った。それより後で、一休が「ひごく郎」と言ったのを咎めると、愚僧の寺の門番だと言われて合点し、次に「九郎助」と言い、合点が行かぬと言われると、「そなたの寺のひごく郎ばかりが門番か。こちの寺の九郎助も門番ぢゃ。」と言った。

貞享四年(1687)刊の『はなし大全』には、「火やろ」で「いろは回し」をして、糸、楼閣、花、仁王などと続き、チに当たった字の読めない者が、「ちりぬるをわか」と言って、「いろは回しといふは、かしら字を取って言ふ事ぢゃ。」と教えられ、「それならば、ち。」と言うと、「いや、一字ではならぬ。」と言われ、「長く言へば長いと言ひ、短く言へば短いと言やる。もはや言ひやうが無い。」と腹を立てる話があります。これは珍しくイロハ順です。

『醒睡笑』(五)には、「い文字鎖」を少人が集まってしたという話があります。具体的なことは書いてないのですが、これもイで始まる語を連ねるのでしょうか。

大人の遊びとしては単純過ぎるようですが、テレビで、膨らまし続ける風船を、何かをしながら順に手渡す遊びを見ることがありますから、現代でも大人が似たことをやっていると言えるでしょう。

第20回 ん回し など
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