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しゃれで付けた名
2003年8月25日公開

旧悪を告白しますと、学生の時に、だいぶ列車でキセルをしました。

キセルは、雁首と吸い口は金属ですが、途中は竹のラオです。初めと終わりだけは金があるが、途中は金が無いのです。

昭和五年に出た『モダン語辞典』に、「烟管乗りと云って、電車、汽車等で前半一部と後半一部の切符のみ買って通して乗る方法」とあります。昭和初期にはあった言葉であることが分かります。この本には、「選挙買収等で、契約の時に前金投票後に後金を支払ふ方法」という意味も記してあります。昭和六年刊の『特殊語百科辞典』によると、「汽車の中間は三等切符を買ひ、始発駅着車駅の付近だけを一等切符を求めて送迎者に見栄をはること」という意味もあるそうです。このほうが少しは可愛げがあります。

無賃乗車(船)を、もっと古くは「薩摩守(さつまのかみ)」と言いました。狂言『薩摩守』(大蔵虎明本)に、

船賃は薩摩守ぢゃとおしゃれ。…その心はと言はうならば、ただのりぢゃとおしゃれ。
…昔、平家の公達に、薩摩守忠度(ただのり)といふ人があった。御身舟にただ乗るを、薩摩守と言ふは、ただのりと言はうためぢゃ。

とあるのが、説明になっています。平忠度は、平家の都落ちの時に京都へ引き返し、歌の師である藤原俊成の家へ勅撰集に入れてほしいと自分の歌集を届けたという『平家物語』にある逸話で知られていました。

尾崎紅葉の代表作『金色夜叉』(中編一)に、「美人クリイム(箇(こ)は美人の高利貸を戯称せるなり)」とか、「高利貸(アイス)」とかいう語が出てきます。もう一つの明治のベスト・セラーである徳富蘆花の『不如帰』(上・六の一)にも、「高利貸(アイスクリーム)」とあります。アイスクリームは氷菓子、つまり高利貸しです。『日本国語大辞典』によると、学生の隠語であったそうです。

今回はしゃれによる命名を扱います。いろいろとあると思いますが、道具・飲食物・屋号・看板・書名に限ります。数が多いので3回に分けて掲載する予定です。

第14 回 しゃれで付けた名(前編)  
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