アナグラム(anagram)というのは、文字を並べ換えて別の語句を作ることです。David Cristalという人の"Language Play"(1998)という本からいくつか引用します。
the eyes → they see
desperation → A rope ends it.
Rome was not built in a day. → Any labour I do wants time.
Clint Eastwood → old west action
Dwight David Eisenhouwer → He did view the war doings.
わたくしがアナグラムというものを知ったのは、モーリス・ルブランの『813』を読んだ時でした。ロシアの公爵ポール・セルニン(Paul Sernine)は、アルセーヌ・ルパン(Ars
ne Lupin)のアナグラムで、同一人であるというのです。なお、ルパンは、『金三角』(Le Triangle D'ore)以下の三作には、スペインの貴族ドン・ルイス・ペレンナ(Luis Perenna)という名で出て来ます。これもアナグラムです。
福永武彦氏は、加田伶太郎という匿名で『完全犯罪』(昭和三十一年)以下のミステリーを書きました。初めのうちは著者の写真もボケたものを用いていました。このペン・ネームについて、作者自ら、
まず自分の名前を製造にかかった。それをアナグラムで行くつもりで、やたらに原稿用紙にローマ字を書き散らした。アナグラムというのは、文字の書き換えである。…この式を真似するつもりで僕の考え出したのが、
加田伶太郎(Kada Reitar
)つまり「誰ダロウカ」(Taredar
ka?)
である。…次に名探偵の名前は、やはりアナグラムで行くことにして
伊丹英典(Itami Eiten)
と名づけた。つまり
「名探偵」(Meitantei)
である。(素人探偵誕生記)
と語っています。福永氏が「地球を遠く離れて」(昭和三十三年)というSFで用いた船田学というペン・ネームは、Fukunaga daだそうです。
ミステリー作家の泡坂妻夫氏の本名は厚川昌男氏です。これもアナグラムです。
しかし日本語は単音の数が少ないから、アナグラムでも元の語が推定できるものが多く、外国語のもののような意外性に欠けるようです。