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第2回 「文字あそび(漢字の分解)」後編  
2.中国の「漢字の分解」

中国の例はこれまでいくつかありましたが、他に思いついたものをいくつかあげます。
『後漢書』(五行志・一)に次の記事があります。後漢の最後の帝王である献帝(在位189−220)の即位したころ、都に、

千里草 何青青 十日卜 不得生
千里の草、何ぞ青青たる。十日の卜、生きることを得ず

という童謡がはやった。これは董卓(139−193)が君を凌ぐが後に没落する前兆である。千里草で董、十日卜で卓、それが初めは青々としているが生きられないというのです。『三国志演義』(第九回)では、董卓が殺される前に聞こえてくるとなっています。

『後漢書』(蔡茂伝)には次の話もあります。蔡茂が大殿に座っていると、極(棟木)に穂が三本ある禾(稲)があるので、真ん中の穂を取ったが失ったという夢を見た。郭賀がこの夢を、禾を失うのは秩だから、禄秩(俸禄)を得るだろうと解いた。

同じような夢解きの話が『晉書』(王濬伝)にもあります。王濬(おうしゅん)が、家の梁に三本の刀が懸かっている上にもう一本益す夢を見た。李毅が、三本の刀は(州)で、それを益すのだから、益州に栄転するだろうと解いた。

唐の李公佐の伝奇小説『謝小蛾伝』も夢解きにかかわる話です。

盗賊に父と夫とを殺された謝小蛾という女性が、夢で、父は車中猴、門東草に、夫は禾中走、一日夫に殺されたと告げられる。この謎を解いてくれた人があった。父を殺したのは申蘭、夫を殺したのは申春である。車中猴は上下の一画を去れば(原文はこうなっていますが、車の中の部分は、ということでしょう)申になる。申は猴(さる)の属である。門東草は蘭の字である。合わせて申蘭となる。禾(いね)の中を走るとは田を通りぬけるのだから申の字、一日夫は春だから、申春となる。小蛾は男装して申蘭に近づき、復讐した。故郷に帰ると豪族たちが争って求婚したが、小蛾は髪をきって出家した。この話は、柴田錬三郎氏の忍者小説『赤い影法師』に、真田幸村が謎を解くヒントとして用いられています。

明の趙南星の笑話集『笑賛』に、宋時代の政治家の王安石が文字を研究していて、ある時、「波は水の皮だ。」と言ったところ、詩人の蘇軾(東坡)が、「それでは滑は石の骨か。」と言ったという話があります。形声の字を会意と解した誤りです。

『金瓶梅』(第四回)に、プレイボーイの西門慶が人妻の潘金蓮との情事の後で感想を聞かれ、「色糸子女」と言うところがあります。「絶好」ということです。

これは、邯鄲子礼が書いた曹娥という孝女の碑を蔡が読んで、「黄絹幼婦外孫臼(こうけん・ようふがいそんせいきゅう)」という八字を碑に刻んだのを、揚脩が、黄絹は色糸だから絶、幼婦は少女だから妙、外孫は女(むすめ)の子だから好、臼(和え物を作る臼)は辛きを受けるのだから(辞)、「絶妙好辞」とこの碑文を褒めたのだと解いたという『世説新語』(捷悟)に見える話を踏まえているのかもしれません。中国のものには、このように込み入ったものもあります。(前のほうに引いた『本朝文粋』の「離合詩」の七行目に「色糸辞」とあったのも、これを踏まえています。)

『世説新語』には次の話もあります。ある人が魏の曹操に酪(ヨーグルトのようなもの)を贈った。曹操は少し食べて、蓋の上に「合」の字を書いた。右の揚脩が、人に一口ずつ食べさせようというのだと解いた。

清の蒲松齢の怪談集『聊斎志異』の「鬼令」という話に、酒席の遊びで詩を作るところがあります。柴田天馬氏の訳文を引用します。

田の字は閉め切りだ。十の字が中にいる。十の字を推し上げると、古の字で一杯勝った。
(原文)田字不透風 十字在当中 十字推上去 古字一鐘

回の字は閉め切りだ。口の字が中にいる。十の字を推し上げると、呂の字で一杯勝った。

囹の字は閉め切りだ。令の字が中にいる。令の字を推し上げると、含の字で一杯勝った。

困の字は閉め切りだ。木の字が中にいる。木の字を推し上げると、杏の字で一杯勝った。

最後の一人はなかなか出来なくて、催促され、

曰の字は閉め切りだ。一の字が中にいる。一の字を推し上げると、一口の一大鐘(おおさかずき)

という苦し紛れの詩を作ります。いかにも漢字の本家である中国にふさわしい遊びと言えましょう。

第2回 「文字あそび(漢字の分解)」後編  
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