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第2回 文字あそび(漢字の分解)前編
2002年7月22日公開
1.恋という字を分析すれば…

子供の時に遊んだなぞなぞに、「ドスンと音がしたのはどこでしょう。」というのがありました。答えは寺。土寸で寺になります。

もう一つ。「ぼくは朝に生まれました。誕生日はいつでしょう」。答えは十月十日。朝を分解すると十月十日になります。

近ごろはあまり聞かなくなりましたが、無料をロハと言いました。只の字を二つに割ったのです。

酒の席などでの歌謡に、

恋(戀)という字を分析すれば、いと(糸)しいと(糸)しと言う心
桜(櫻)という字を分析すれば、二階(貝貝)の女が気(木)に掛かる

というのがあります。分析という固い語を用いていることから考えると、大正ころにでも学生などが作って歌い始めたものでしょうか。昭和三十五年に、小林旭が日活映画「東京の暴れん坊」の中で、これに手を加えた「ノーチョサン節」という曲を歌っていました。

漢字には元来こういう性質があるのだと言えます。漢字の構成を説明する六書のうちの会意は、二つ以上の字の意味を合わせて一つの字を作るのを言います。たとえば、木がたくさんあるのが林、羊の大きいのが美、人の言が信、女が子を愛する姿が好です。日本製の漢字(国字)は、人が動くのが働、山の上り下りする場所が峠など、ほとんどはこの会意でできています。

これをヒネれば、文字の分解の遊びができます。
長寿の祝いの名称は、その代表的なものでしょう。
八十八が米寿、八十一が半寿というのは分かりやすい。
八十を傘寿というのは、傘の人の字を四つ書かない略字です。
七十七は喜寿、喜の字を崩すととなり、七十七に見えます。
九十は卒寿、卒の字を崩して書くと卆となります。

これらは『大漢和辞典』には載っていません。中国で作った『漢語大詞典』にも見えません。天保七年(1836)刊の津阪東陽の詩論『夜航詩話』(三)に「邦俗、八十八を称して米年と為す」(原漢文)と言うように、日本だけの風習なのでしょう。

百から一を取ると白になるので、九十九を白寿と言います。これは『大漢和辞典』にありますが、例はありません。中国で作った『漢語大詞典』にも見えません。これも日本製でしょうか。

これらの中では、米寿が古く、天文十七年(1548)成立のイロハ引きの辞書『運歩色葉集』に「米年 曰八十八歳」とあります。次いで喜寿が古く、『日本国語大辞典』には明治四年の『安愚楽鍋』の例があがっています。それ以外は、白寿に昭和三十六年の山川方夫氏の『海岸公園』の例があるだけで、半寿・傘寿・卒寿に例はありません。かなり新しい風習なのでしょうか。

中国にもあるのは、六十一を華甲と言うものです。華の字は十十十十十十一になります。甲は甲子の略で、十干十二支の最初をあげて年の意味にしたものです。ここまで来ると、落語「平林」で、平林という姓を、タイラバヤシ、ヒラリン、さらにイチハチジュウノモクモク(一八十の木木)、ヒトツトヤッツデトッキッキ(一つと八つで十木木)と読むのに近くなります。この原話は寛永五年(一六二八)に安楽庵策伝が板倉重宗に贈った笑話集『醒睡笑』(六)に「ヒャウリンか、ヘイリンか、タヒラバヤシか、ヒラリンか、イチハチジフにボクボクか、それにてなくはヒャウバヤシか」とあります。

この平林ほどではありませんが、姓の字を分解したペンネームを用いた作家がいます。時代小説作家の直木三十五の本名は植村宗一、推理作家の木々高太郎の本名は林髞です。木々氏は名の一部も用いています。

こういう例は元禄ごろにもあり、『女重宝記』『男重宝記』などの実用書を著した苗村丈伯(なむら・じょうはく)という人は、艸田寸木子とか艸田子とかいう号を用いています。

森鴎外といっしょにドイツから帰国した軍医の石黒忠悳(ただのり)は、明治二十一年七月二十七日の日記に「今夕、多木子報じて曰く、其の情人ブレメンより独逸(ドイツ)船にて本邦に趣きたりとの報ありたりと」と記しています。多木子とは森鴎外のこと、多くの木は森です。前後には森氏と記してあるのに、ここだけ多木子であるのは、スキャンダルにわたることなので、名を隠して記録したのでしょう。鴎外の帰国後に、ドイツからエリスという少女が日本に来て、森氏の一族は、彼女をドイツへ帰らせるために大騒ぎしました。

こういう漢字を分解する遊びは、漢字の本家である中国で始まったもので、日本でもそれに倣ったものでしょうが、初めにあげた「恋」や「桜」のような日本独自のものも行われました。

第2回「文字あそび(漢字の分解)」前編
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